 ロディアNO.16横罫の赤いマージン・ライン 『万年筆インク紙 』を読み終えて

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 やっと片岡義男の「万年筆インク紙」を読み終えた。よほどの片岡義男ファンか万年筆愛好家でないと最後まで読みきるのは不可能なんじゃないかと思いながら読んでいた。そもそも前書きも目次も無く突然に

父親はそれを、僕に見せた、わけではなかった。

でこの本は始まる。
 本のタイトルどおり内容は万年筆とインクとそれらを使って書くための紙、つまりノートの話だ。どんな万年筆が自分の書き方にあっているのか、その万年筆に入れるのに相応しいインクのメーカーと色はどれなのか、そして気にいったインクを吸入させた選ばれし万年筆で気持よく字が書けるノートはどのメーカーの何年に製造されたノートなのだろうと。そんな話が延々と続く。だからここからが主題で要点の部分はここだ、と言った書き方はしていない。すべてが満遍なく要点なのだ。言わば全編が取扱説明書のような本である。そして万年筆の事が書いてあるなぁと思うとノートの話に飛んだり、はたまた急にインクの瓶の話にも変化する。思い付きで好きなように書き記したメモの寄せ集めのようにみえても全体を通して内容は一貫している。だから目次は作れない本になったのだろう。本当は一気に読み上げるのが礼儀だと思われる本なのだが万年筆、インク、紙に関するうんちくが深く、読み手が理解するには時間と根性を有するために読了するのに時間を要した。
 今朝起きてこの記事を書くために「万年筆インク紙」を確認しようと開いたところ文字の色が黒く見えた。買ってきてすぐに開いた時には青い文字に驚いたのに今朝見たら黒く見えた。ルーペを使ってみても変わりないので、これは片岡流のジョークで本の印刷にブルーブラックインクを使って驚かそうとしたのだと思った。万年筆のブルーブラックインクは無色透明の酸化鉄溶液を使っていて、これで文字を書くと書いた当初は無色でしばらくすると酸化作用で黒くなる仕組みらしい。無色では実用上で困るので青い色をつけたらしいがやがて黒色になる。こう言ったインクを使って印刷出来るのなら片岡義男ならしかねないと思った。しかし家人に確認したところ本の文字は購入した時に見た色と同じ青色だと言われた。この本を読んで少々疲れているのかもしれない。
 片岡義男は万年筆やインク、紙をそれぞれ数えきれないほど試して自分の好みのモノを探し続けている。そのうちに万年筆、インク、紙を個々に試すのではなくそれぞれに適した組み合わせを考えるようになる。カスタム742にはパーカーのブルーブラックインクを入れてノートはクレールフォンテーヌにするとかラミーのSafariにはやはりラミーのインクを入れツバメノートに書こうと言った具合だ。しかしこの組み合わせも限りが無く、どこかで1つないしは多くても3種類に絞る方針を立てたようだ。万年筆はパイロット社のカスタム743・742のM(中字)、インクにはパーカーのブルーブラックとブルーそしてウォッシャブルブルーとなる。問題の紙、ノートについてはあとがきにもあるがこの本の中でもいろいろな種類のノートが登場するが根本的な好みについて書いている。ノートはほとんどが横開きで片岡義男は右のページだけを使う。そして文字で埋まった右ページを左へ開いて閉じるよりもそのまま上へと開いてすべてそこに加えたいと言う。この方法がストレスのないノートの使い方で子供の頃から綴じてあるのノートの左側が嫌いだったとも言う。そしてこれをあとがきに書くという事はこの本の執筆中にまとまった考えなのだろうか。そして

書き終えて左へと開いたページが、いつまでもそこにあるのが、いけない。ということは、書いたページは上に向けて開くと同時に、本体から切り離すのが僕の好みだ、ということがわかった。
こうして僕は、いまようやく、ロディアのブロックの人になるのだろうか。

とある事から片岡義男は2016年の時点ではカスタム743・742にパーカーのブルーブラック・ブルーインクを入れてロディアに書くという方法が1番のお気に入りの書き方だったのだろう。が探究心旺盛な彼の事なので2020年になった現在もそれよりももっと気持ちよく自分の書きたい字が書ける万年筆インク紙を求め続けているのではないだろうか。
 ノートの中でロディアNO.16の横罫A5サイズにあるという、無くてはノートとして成り立たない赤いマージン線とはどんなものなのか現物を買って万年筆で試し書きしてみた。万年筆はパイロット社のカスタム74のM字に色彩雫の紺碧を入れて書いてみた。A5サイズのロディアは初めてで特に万年筆のMで書くのは興味深い体験だった。まず書き心地はツバメノートやキャンパスノートのような紙の上をペン先が滑っていく感覚とは違って、ペン先を通して紙にインクが染み込んでいくのがはっきり分かるくらいの抵抗感がある。それでいて滲みや引っ掛かりはなくしっかりとしたタッチで字が書ける。この感覚は初めて味わったしボールペンでは気付くことは出来ないだろう。ちょっと気に入ってしまった。しかし重要だと言う赤いマージン線についてはなぜこんなモノをノートの絶対条件にするのかは分からなかった。もしかしてコーネル式ノートのような利用方法なのだろうか?
See you tomorrow!

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