 街にコロナ海にふぐ山にわらび

 今年はワラビを食べていない 。毎年5月の連休前にはちょっと遠くの山まで出かけて行ってワラビ採りを楽しむ。山といってもそんなに深い山ではなくて人里から少し登ったあたりの雑木林にワラビはある。年々山菜採りを楽しむ人が増えて、取ることが出来る場所も量も減ってきているけれど気を付けて探せば、まだまだみつかる。
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 ハイキング気分で無理をしない程度に家族や友だちとお弁当を持って楽しみながらワラビ採りはすると良い。収穫だけを期待していくと、その日一日がつまらないものになる。ワラビをみつけたら茎の部分を指で小気味良くポキっと折れるところから上を採取する。根っこに近いところはスジがあって美味しくないので潔く上の方だけを採る。この時、採ったワラビの切り口に重曹をまぶしておくと元気な状態で持って帰られる。ある程度収穫してお弁当も食べ終えたらうちへ帰る。ワラビはそのままでは食べられないのでオヤツにもならない。うちに帰って下ごしらえをする。
 さて、うちに帰ったら近くの農家で藁灰を作るためのワラを分けてもらいに行く。その時にお土産のワラビを持っていけば怪しまれる心配もない。ワラが用意出来たら庭の隅っこでそのワラを燃やして灰を作る訳だが、別にコツもなにもないただ燃やせば良い。大きめの鍋を用意してさっと水洗いして汚れを落としたワラビを折らないように入れる。そこへさっき用意した藁灰を振りかける。アク抜きのための儀式なのだが重曹を使うと分量などが細かく決められているが藁灰の場合はだいたいに適当な量で良い。重曹でアク抜きをするとせっかくの山菜に化学調味料をかけるようで嫌だし、藁灰はアク抜きが緩いようだがそのあたりの素朴さがらしくて好きだ。そうしたら熱く沸かしたお湯をワラビにまんべんなくかけながら鍋にはっていく。はり終わったら蓋をして一晩そのまま待つ。

私は海から最高の美食の対象としてふぐを挙げることをためらわなかった。それでは山からはなにを――ということになるだろうが、差当って私はわらびと言いたい。わらびはもちろん取りたてでなければいけない。型の如くゆでて灰汁あくを抜き、酢醤油で食う。これが実に無味の味で、味覚の器官を最高度にまで働かせねば止まないのである。
 海にふぐ、山にわらび、この二つ、実に日本の最高美食としての好一対であろう。
北大路魯山人 海にふぐ山にわらび

北大路魯山人 海にふぐ山にわらび青空文庫で全文を読む

 朝になって、いよいよ昨日アク抜きを仕込んでおいたワラビを水洗いする。食べやすい大きさに切って、お醤油だけかけても良いし、かつお節をかけてもいい。ワラビのシャキッとしていながら中がみずみずしい食感に間違いなく春を感じる。これこそが魯山人の言うところの無味の味だろう。
 子供の頃はワラビには見向きもしなかったし食べさせられれば食べたが、これっぽっちも美味いと思ったことはなかった。苦くて青臭い、ただの草の味だった。それがいくつになった頃からか忘れたがワラビの美味しさが分かるようになった。大人になって子供の頃の鋭敏な味覚が鈍くなったのか、酒を嗜むようになった性なのかは分からないけれども美味しい、大人の味だ。
  今年はコロナの影響で外出も自粛規制されていたし友だちどうしでの活動も制限されていたので山菜採りツアーなども中止されているようだ。ましてや山の住人以外の人が勝手に入り込んで山菜採りをしていたら本物の密、密猟になる。なんとか来年の春には以前のように楽しく山菜採りが出来るといい。
See you tomorrow!

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