 ブルーブラックの文字にこめられたプライド

父親はそれを、僕に見せた、わけではなかった。九歳の僕が勝手に見た。休日に自宅にいるときの父親は、いつも衣服のポケットに入れて持ち歩く物をすべて取り出し、自室のデスクの上にひとまとめに置いていた。手を触れることは許されなかったから、僕はときどきそれらを眺めた。
片岡義男 万年筆インク紙

ブルーブラックというには薄いが青い文字でその本は始まる。パーカーのウォッシャブルブルーに取り憑かれた片岡義男の「万年筆インク紙」だ。

注文していた本屋から届いて開いた最初のページには青い色で印刷された文字が縦に36文字 横に16行並ぶ。エッセイというよりも万年筆とインクとノートの解説本である。一見大雑把なようにみえるが内容は微に入り細に入り書かれており参考になる。この本には目次がないために調べたい事柄があると記憶を頼りに何度も読み返す必要がある。片岡義男の小説はあまり好かない。けれどもこういった本の書き方というか道具への拘りやそれを書いた文章は好きだ。

この本は表紙から背表紙まで もちろん本文も青い文字が使ってある。おまけにカバーの文字も青だ。これまでこんな本は読んだこともなかったし こんなに頑固な物書きも知らない。いつしか「万年筆インク紙」は文具のバイブルになっていた。

See you tomorrow!

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