たそがれ色のシムカ(雨の日には車をみがいて 五木寛之)の洗車哲学

 「車は雨の日にこそみがくんだわ 。ぴかぴかにみがいたボディに雨の滴が玉になって走るのって、すごくセクシーだと思わない?」 五木寛之の雨の日には車をみがいての中の一編、たそがれ色のシムカに出てくる主人公の彼女の言葉だ。
 何年かぶりに乗用車を手に入れた。かなり古い車なので内外装ともに、それなりにエージングは進んでしまっている。何はともあれ雨対策が必要になる。つまりワックスがけをして少しでも長い時間を共有出来るような処置をする必要がある。
 洗車というと決まって思い出す本がある。五木寛之の1988年初版「雨の日には車をみがいて」だ。この本をいつ読んだのかも覚えていないが洗車が必要だと思われる時には必ずつぶやく言葉がある。「雨が降るから洗車するんだ」と。
 乗用車(四駆を含む)の洗車は今まで洗車機を使った事がない、必ず手洗いをしてワックスも自分でかける。大昔とは違って洗車機の性能は良くなっているので洗車機に任せたほうが速いし楽だし綺麗に仕上がる。しかし細かい所まで目で確かめながら洗ってやりたいのだ。そしてワックスをかけて日頃の労をねぎらいながら磨いてやるのだ。
 洗車、特にワックスがけには2つの相対する理論がある。雨が降って汚れたから洗うタイプと雨が降りそうだから洗ってワックスをかけるタイプだ。別に科学的に証明されているわけでもないし、ましてや法律で定められているでもない。雨が降ったから汚れを落とすために洗うというのは単純に明解であり自然だ。しかし雨が降りそうだから、そのためにきれいにしておくと言うのには小難しい理論が要る。先回、洗車してから今までに(雨が降りそうな今)積もった砂や埃をそのままにしたままで雨にあたると砂やホコリが融け合ってゲル状になりこれを水で洗い落とそうとすると塗装面との摩擦が発生する。つまり洗車する事で塗装面を傷つけてしまう、とする考えだ。これは一理あってこちらの理論に賛成するから本の台詞とも相まって雨が降る前に洗車するようにしている。

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参考画像 シムカ 1000

 「雨の日には車をみがいて」は時代が1966年ビートルズが東京にやって来た年に1人の放送作家がフランスの大衆車シムカ 1000を手に入れることから始まり、それは恋人?のために購入したようなものだった。赤いシムカは944ccのOHV4気筒エンジンを積んでおり元々の黄色のボディを前のオーナーが安い業者に上から赤く塗らせたために赤色が剥げかかっており本人曰くあかね色、彼女に言わせるとたそがれ色の36万円の車だ。この車に対して300馬力のマスタング V8 ファーストバッククーペを所有する上司?恋敵?が本の中で登場する。上司はその業界では、やり手で周りからは一目おかれ天皇とまで呼ばれる人物だ。その彼は部下でアルバイトの学生に愛車の洗車などの管理を任せていたが、その日は雨が降りだす直前に洗車をしてしまった。その事に激怒したマスタングのオーナーはこんなような事をアルバイトに言った。雨が降るとわかっているのに洗車したらまた洗わなきゃいけない、その金は誰が払うと思っているんだ、馬鹿野郎!とこんな感じだ。そんな事件の直後に主人公の彼女が雨が降るのに新品の白い靴を履いて現れて、マスタング野郎の一件は知らずに「雨の日だからこそ新しい靴をはくのよ」そして「車は雨の日にこそみがくんだわ 。ぴかぴかにみがいたボディに雨の滴が玉になって走るのって、すごくセクシーだと思わない?と言い放った。 こんな短編が9話収められた恋愛?と車の本だ。
 5年ぶりに自動車を洗車&ワックスするにあたってむかし読んだ本のことを思い出した。雨が降る前か、降った後に洗うのか。。。ニワトリが先か、タマゴが先か、的な。止まなかった雨は無いし降らなかった雨もない。
結局、どっちもおんなじだ。こまめに洗うしかない。
See you tomorrow!

雨の日には車をみがいて (集英社文庫)

雨の日には車をみがいて (集英社文庫)

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